本記事は、2024年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)100号に掲載しているものです。
【100号特集】24社に聞く、経営構想におけるマーケティング
─ 「競争」から「共創」へ 日本マーケティング協会の新定義が示す、これからのマーケティングのあり方
─ 5つの柱でお客様の期待を超える マーケティングとイノベーションを実現する
─ 1年で大きく進化し「生活者に近づいた」味の素のマーケティング 新組織設置の狙いとその成果を聞く
─ 「マーケティング部も 営業部も存在しません」全社を巻き込むCX推進部がイーデザイン損保の経営を動かす
─ 目指すは「シェアNo.1」ではなく「唯一無二」、花王がマーケティング戦略を変えた背景(本記事)
─ 「良いコンテンツを作れば自然と広がる仕組み」を目指して──「ABEMA」の経営とマーケティング
─ 苦境から回復、さらには飛躍を目指して。「お客様の実感価値」の解像度を上げるJTBのマーケティング
─ 生活者インサイトを捉えて新たな文化・市場を創造する 資生堂においてマーケティングが果たす役割
─ セブン-イレブン・ジャパンがマーケティング本部を新設 加盟店も含めた全社の“ハブ”を目指して
─ 「ファッションの『こと』ならZOZO」というイメージ醸成を目指す、ZOZOの戦略と取り組み
─ 常識破りの戦略で圧倒的な成長を。「KANDO(感動)ドリブン」で駆け上がっていくトリドールの構想
本当のグローバル化とは何か?花王のグローバル・シャープトップ
――まずは中長期成長戦略と、その中のテーマや重要項目を教えてください。
現在、中期経営計画「K27」を進めています。「K27」は花王が「豊かな共生世界の実現」というパーパスを実現するために重要な通過点であり、私たちは「K27」を経てビジネスモデルを大きく変革し、「未来のいのちを守る」企業に進化することを目指しています。そして、社会課題に挑む多くのパートナーと共に、次なる価値創造と利益ある発展に向けて加速していきます。
今回は中でも成長戦略において重要なグローバル・シャープトップについて説明します。グローバル・シャープトップとは、顧客の重大なニーズに、エッジの効いたブランドやソリューションで世界No.1の貢献をすることです。「シェアNo.1」ではなく、そこで暮らす生活者にとって唯一無二の存在になること、そして「日本を中心に捉えた海外展開」ではなく「世界全体を市場として捉え、優先する顧客を設定した活動」とイメージするとわかりやすいでしょう。
本当の意味でのグローバル化とは何か? キャリアの多くを海外で過ごしてきた私は常々その意味を考えていましたが、グローバル・シャープトップはまさに本質を突いていると思います。
――グローバル・シャープトップ実現に向けたマーケティング戦略をお聞かせください。
具体的な戦略の1つとして、スキンケア事業、特にスキンプロテクションの強化を挙げています。スキンプロテクションとは肌を外的環境から守ることであり、UVケア、セルフタンニング、環境プロテクションの3つから構成されています。アプローチは違いますが、いずれも「未来のいのちを守る」を軸にしています。UVケアに関しては地球温暖化が進み紫外線による肌ダメージに懸念が集まる中、花王の技術を各国の生活者のために役立てたい想いがあります。セルフタンニングは太陽光による日焼けをしなくても美しく健康的な肌を実現できることから、なりたい自分になること、ひいてはいのちを守ることにつながります。昨年にはオーストラリアのセルフタンニング市場で高いシェアを誇るBondi Sands(ボンダイサンズ)社を買収、事業成長を加速させています。最後の環境プロテクションについては、たとえば花王独自の技術で、蚊が止まりにくい肌の状態に整える虫(蚊)よけローションを展開、東南アジアの社会課題であるデング熱の対策に貢献しています。
グローバル・シャープトップはスキンケア事業だけでなく、他事業でも当てはまることです。たとえば昨年、食器用洗剤「キュキュット」では、環境に配慮した素材を使ったつめかえ容器「未来にecoペコボトル」を発売。従来品よりラクにつぶせてお客様にとって使いやすくなった他、容器の生産・廃棄にかかるCO2排出量の削減や、コスト削減など、環境や企業にとってもメリットがあると注目を集めました。ここで用いた技術は、サステナビリティを事業成長やブランド力向上につなげるものとして使うことが可能です。
このように花王がこれまで培ってきた独自技術を他国や他の商品カテゴリー・ブランドの課題解決に用いることで、新たな価値を創出し、花王が唯一無二の存在となることを目指しています。