本記事は、2024年4月刊行の『MarkeZine』(雑誌)100号に掲載しているものです。
【100号特集】24社に聞く、経営構想におけるマーケティング
─ 「競争」から「共創」へ 日本マーケティング協会の新定義が示す、これからのマーケティングのあり方
─ 5つの柱でお客様の期待を超える マーケティングとイノベーションを実現する
─ 1年で大きく進化し「生活者に近づいた」味の素のマーケティング 新組織設置の狙いとその成果を聞く(本記事)
─ 「マーケティング部も 営業部も存在しません」全社を巻き込むCX推進部がイーデザイン損保の経営を動かす
─ 目指すは「シェアNo.1」ではなく「唯一無二」、花王がマーケティング戦略を変えた背景
─ 「良いコンテンツを作れば自然と広がる仕組み」を目指して──「ABEMA」の経営とマーケティング
─ 苦境から回復、さらには飛躍を目指して。「お客様の実感価値」の解像度を上げるJTBのマーケティング
─ 生活者インサイトを捉えて新たな文化・市場を創造する 資生堂においてマーケティングが果たす役割
─ セブン-イレブン・ジャパンがマーケティング本部を新設 加盟店も含めた全社の“ハブ”を目指して
─ 「ファッションの『こと』ならZOZO」というイメージ醸成を目指す、ZOZOの戦略と取り組み
─ 常識破りの戦略で圧倒的な成長を。「KANDO(感動)ドリブン」で駆け上がっていくトリドールの構想
経営に限りなく近い、味の素社のマーケティング
―― はじめに、味の素社が経営戦略として掲げる「ASV経営」とはどのようなものか教えてください。
岡本:ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)経営は、社会価値と経済価値の両方を満たす価値をステークホルダーの皆様と共創していくことを掲げる経営戦略です。マイケル・ポーター氏が提唱するCSV 経営(Creating Shared Value)をベースに考えたもので、「2014-2016中期経営計画」で発表しました。
ASV経営として打ち出したのは近年ですが、社会価値と経済価値の両立は、我々にとって新しい考え方ではありません。うま味調味料の『味の素』は「日本人の栄養状態を改善したい」という強い思いのもと生まれたものであり、設立当初より味の素の根幹には「社会課題の解決を目指す志」があります。
―― そのASV経営において、マーケティングが果たす役割はどのようなものでしょうか?
岡本:味の素社のマーケティングは、ひとことで言うと、お客様と社内の様々な機能をつなげるハブのようなものです。そのため、味の素社のマーケターは、原料の調達やR&D、商品開発、コミュニケーション、SCM(サプライチェーン・マネジメント)など、あらゆるバリューチェーンに関与します。もちろん、社内の仕組みや技術について深く知っていなければ仕事はできません。加えて、生活者のインサイトを誰よりも熟知している必要があります。
さらに担当するブランドについては、売上やマーケティング費だけでなく、ビジネスプロフィットまで責任を持ちます。市場での成長だけでなく、マインドシェアやブランドイメージの醸成といったお客様の心の中での成長も果たさなければなりません。このように、味の素社におけるマーケティングの概念は非常に広く、マーケターには経営的感覚が求められます。